
企業の成長を支えるのは、社員一人ひとりの力、そしてチームとしての結束力です。
毎年恒例の社員旅行や研修も、ただの慰安で終わらせるのではなく、チームの絆を深め、新たな創造性を引き出すための「投資」と捉え直してみませんか?
今回ご提案するのは、ありきたりな観光旅行とは一線を画す、「食文化体験」を軸にした韓国でのチームビルディングプランです。
お隣の国、韓国の食卓に欠かせない「キムチ」を全員で作り、伝統酒「マッコリ」の奥深い世界に触れる。
この共同体験は、五感を刺激し、自然なコミュニケーションを生み出し、組織に新しい風を吹き込む絶好の機会となるはずです。
なぜ「食」がチームビルディングに最適なのか。
そして、具体的な体験プランがもたらす効果とは。このコラムでは、その魅力とモデルプランをご紹介します。
第一章:なぜ「食文化体験」がチームビルディングに効くのか?
食事は、万国共通のコミュニケーションツールです。
美味しいものを共に味わう時間は、人の心を解き放ち、普段は交わさないような会話のきっかけを生み出します。
しかし、今回の提案はその一歩先、「共に創り、学ぶ」体験にこそ価値があるというものです。
- 自然な役割分担と協業の発生: キムチ作りでは、「野菜を洗う人」「ヤンニョム(薬念)を混ぜる人」「白菜に塗り込む人」といったように、自然と役割が生まれます。「この味付けで大丈夫?」「こっちをお願いできる?」といった声が飛び交い、指示系統のないフラットな環境で、自発的な協力関係が築かれます。これは、日常業務におけるプロジェクト進行の縮図とも言えるでしょう。
- 共通の目標達成による一体感: 「美味しいキムチを完成させる」というシンプルで分かりやすいゴールに向かって、全員で知恵と力を出し合う。試行錯誤の末に完成したキムチを味わう瞬間の達成感は、何物にも代えがたいものです。この成功体験の共有が、「私たちは一つのチームだ」という強固な一体感を醸成します。
- 五感を通じた強烈な記憶の共有: テキストや映像で学ぶ研修とは異なり、食文化体験は、ニンニクや唐辛子の香り、ヤンニョムの感触、発酵する音、そしてもちろん味わいといった、五感すべてに訴えかけます。こうした身体的な記憶は、脳に深く刻まれ、「あの時、みんなでキムチを作って楽しかったね」という鮮明な共通の思い出として、長くチームの財産となります。
- 異文化理解と多様性の受容: 韓国の食文化の根幹に触れることで、その背景にある歴史や価値観を肌で感じることができます。なぜ韓国の人々がキムチを大切にするのかを知ることは、表面的な理解を超えた、真の異文化理解へと繋がります。これは、グローバル化が進む現代のビジネス環境において、多様性を受け入れ、尊重する姿勢を育む上で非常に有益です。
第二章:チームの絆を漬け込む「キムチ作り体験」

韓国の食文化を語る上で、キムチは絶対に外せません。
単なる漬物ではなく、韓国人の魂(ソウル)フードであり、家族や地域社会の絆の象徴でもあります。
特に、冬の前に大量のキムチを共同で漬ける「キムジャン(김장)」文化は、ユネスコ無形文化遺産にも登録されており、その協同作業の精神はチームビルディングの理念と深く共鳴します。
体験プログラムの流れ
ソウル市内には、旅行者向けに本格的なキムチ作りを体験できる施設が数多くあります。多くは日本語対応が可能で、手ぶらで参加できるのも魅力です。
- レクチャー: まず、専門の講師からキムチの歴史や種類、そして健康効果について学びます。キムチが単なる食品ではなく、発酵科学の結晶であり、韓国の知恵の集大成であることを知る知的な発見があります。
- 調理開始: エプロンと手袋をつけ、いよいよ実践です。塩漬けされた白菜を一枚一枚めくりながら、唐辛子、ニンニク、生姜、アミの塩辛などを混ぜ合わせた真っ赤なヤンニョムを丁寧に塗り込んでいきます。
- 共同作業: ここがチームビルディングのハイライト。ヤンニョムのボウルを支え合う、白菜を渡す、味見をして意見を交わす。「もっと辛い方がいいかな?」「この塗り方で合ってる?」など、自然な会話と笑い声が絶えません。普段は物静かな社員が意外な手際の良さを見せたり、役職者が新人社員に教わったりと、役職や年齢の壁を超えたコミュニケーションが生まれます。
- 完成と試食: 自分たちで漬けたばかりのフレッシュなキムチを、茹でたての豚肉(ポッサム)と一緒に試食。自分たちの手で創り出した味は格別です。この瞬間の感動と笑顔が、チームの距離をぐっと縮めます。
完成したキムチは、真空パックにしてお土産として持ち帰ることができます。帰国後、それぞれの家庭で「会社の皆で作ったキムチだよ」と話すことで、体験の記憶がさらに定着し、会社へのポジティブな感情も育まれるでしょう。
第三章:発酵の神秘に乾杯!「マッコリ工場見学」

キムチ作りで一体感を高めた後は、韓国の伝統酒マッコリの世界へ。
米を主原料としたマッコリは、キムチと同じく「発酵」が命。その製造過程を学び、出来立てを味わう体験は、チームの親睦をさらに深めてくれます。
マッコリの魅力と見学体験
マッコリは、かつて農民の酒として親しまれてきましたが、近年その価値が見直され、多様で高品質な「プレミアムマッコリ」が次々と誕生しています。まるでワインのテロワールのように、米の種類、水、そして「ヌルク(麹)」によって味わいが大きく変わる、非常に奥深いお酒です。
- 製造工程の見学: 多くの醸造所では、原料である米を蒸す工程から、ヌルクを混ぜ、巨大な甕(かめ)で発酵・熟成させる過程までを丁寧な説明付きで見学できます。微生物の働きによって、単なるお米が芳醇なお酒へと変化していく様子は、まさに生命の神秘。ビジネスにおける「価値創造」のプロセスにも通じるものがあり、知的な刺激に満ちています。
- テイスティング体験: 見学のハイライトは、なんといってもテイスティング。加熱殺菌されていない、酵母が生きている「生マッコリ」のフレッシュな味わいは、市販品とは全くの別物です。微炭酸の爽やかな口当たりと、米由来の優しい甘みは、まさに感動的な美味しさ。プレーンなものから、栗や柚子、松の実などで風味を付けたものまで、様々なマッコリを飲み比べることで、社員それぞれの好みが分かり、会話も一層弾みます。
- 食とのペアリング: 多くの醸造所では、マッコリと相性抜群のチヂミや豆腐キムチなどが用意されています。美味しいお酒と料理を囲めば、自然とリラックスした雰囲気に。普段の会議室では出てこないような、本音のコミュニケーションや、新たなアイデアが生まれるかもしれません。
ソウル近郊の抱川(ポチョン)市にある「伝統酒博物館サンスルウォン」などは、美しい庭園の中に博物館と醸造所が併設されており、一日楽しめる人気のスポットです。
モデルプラン:2泊3日 協同と発見のチームビルディング旅行
【1日目:韓国文化への導入とチームの結集】
- 午後: ソウル到着。ホテルにチェックイン後、チーム全員でオリエンテーション。
- 夕方: 韓国の食文化の多様性を知るため、様々な食材や屋台がひしめく「広蔵市場(クァンジャンシジャン)」を散策。活気あふれる市場の雰囲気を感じながら、チームでピンデトック(緑豆チヂミ)や麻薬キンパなどをシェア。
- 夜: ウェルカムディナー。伝統的な韓定食を囲みながら、翌日の体験への期待感を高める。
【2日目:メインイベント!共同創造と祝杯】
- 午前: 【キムチ作り体験】
- ソウル市内の体験施設へ。講師の指導のもと、チームで協力しながらキムチ作り。エプロン姿でヤンニョムを塗り込む姿を写真に撮り合ったり、自然な笑顔がこぼれる時間に。
- 昼: 自分たちで作ったキムチとポッサムでランチ。達成感を分かち合う。
- 午後: 【マッコリ工場見学】
- ソウル近郊の醸造所へ移動。発酵の神秘を学び、様々な種類のマッコリをテイスティング。お酒の力を借りて、さらにオープンなコミュニケーションを。
- 夜: チームビルディングの総仕上げとして、マッコリとチヂミが美味しい専門店で打ち上げ。一日の体験を振り返り、お互いの新たな一面について語り合う。
【3日目:自由な対話と帰国】
- 午前: 自由時間。希望者で集まっておしゃれなカフェでブランチをしたり、最後のショッピングを楽しんだり。チーム内で自発的に生まれた小さなグループでの交流が、帰国後の関係性にも良い影響を与える。
- 午後: 空港へ移動、帰国。
おわりに:体験が組織を強くする
今回ご提案した「キムチ作りとマッコリ工場見学」プランは、単なるレクリエーションではありません。
それは、「共通の目標に向かって協力し、未知の文化を学び、五感で成功体験を共有する」という、チームビルディングの本質的な要素が凝縮されたプログラムです。
この旅を終えたとき、社員たちの手には、自分たちで作ったキムチという「成果物」と、共に笑い、学び、味わったという「かけがえのない記憶」が残ります。
そして、組織には、以前よりも格段に風通しの良いコミュニケーションと、困難を共に乗り越えられるしなやかな連帯感が育まれているはずです。
次の社員旅行は、韓国の豊かな食文化の中で、チームの新たな可能性を発酵させてみませんか。それはきっと、企業の未来を豊かにする、最高の投資となることでしょう。